トヨタが、日本史上初の種類株式「AA型種類株式」を発行しますね。正式名称は「トヨタ自動車株式会社 第1回AA型種類株式」です。
手取金の使途は、燃料電池車開発、インフラストラクチャー研究および情報化・高度知能化モビリティ技術開発等の次世代イノベーションのための研究開発資金の予定です。
AA型種類株式のメリット・デメリット、個人投資家が買うべきか否かについてまとめます。特に税務上の取り扱いについてはあまり言及されていないので必見です。総合課税の対象もあります。
目次
トヨタ自動車株式会社 第1回AA型種類株式とは
AA型種類株式の単元株式数は、トヨタ自動車の株式と同じ100株です。発行予定額は5,000億円、発行数は3000万~5000万株です。
具体的な発行数は需要状況等を勘案した上で、発行価格等決定日(7月2日~7月7日)に決定されます。発行価格は決定日の引値の1.26倍~1.30倍(下限6,000円)です。
AA株式は普通株式と同様に議決権を有していますが、剰余金配当や残余財産の分配が異なります。引き受け会社は野村證券です。AA型種類株式が買える証券会社は野村です。
配当
配当年率は固定です。具体的には以下のとおりです。
- 2016年3月期:年0.5%
- 2017年3月期:年1.0%
- 2018年3月期:年1.5%
- 2019年3月期:年2.0%
- 2020年3月期:年2.5%(以降は年2.5%で固定)
AA株式の配当は、発行価格相当額に上記0.5~2.5%の配当年率を乗じて算出されます。例えば発行価格が1株1万円(1単元100万円)の場合、1年目は5千円、2年目は1万円、3年目は1万5千円、4年目は2万円、5年目以降はずっと2万5千円です。
トヨタのAA型種類株式には、「累積条項」があります。もし何らかの事情でトヨタが上記0.5~2.5%の配当を行わなかった場合でも、払われなかった分は次年度以降に累積され、金銭による剰余金の配当が行われます。
また、「非参加条項」があり、上記0.5~2.5%の金額を超えた剰余金の配当はありません。今後、トヨタの業績がますます右肩上がりとなって普通株式は増配してもAA株式は増配しません。
例えば前述のとおり、発行価格が1株1,000円で1単元100万円の場合、AA株式は5千円~2万5千円で固定です。
トヨタの業績が右肩上がりとなり、普通株式が株価120万円・配当利回り2.5%となった場合、普通株の配当は3万円となりますが、AA株式は最大2万5千円です。
ただし、トヨタが吸収分割や新設分割手続の中で会社法に定められている剰余金の配当を行う場合については、普通株主と同一割合の剰余金の配当があります。
5年間の譲渡制限
譲渡制限があり、5年間は原則として売却できません。 第1回AA種類株式を売りたい場合は、原則として、トヨタの取締役会による承認が必要です。例外として、以下の場合には売却できます。
- 第1回AA型種類株式に対する公開買付け(TOB)があり、応募した時
- 相続
- トヨタの取締役会が定める一定の基準に基づいて代表取締役が承認する時
トヨタが定める「一定の基準」とは、AA型株式の株主が、自然災害や破産等のやむを得ない理由によって第1回AA型種類株式を換金する必要がある場合等です。
この場合には、野村證券へ売却できます。ただし、売却価格については野村證券と合意する必要があります。手数料をたっぷりと抜かれる可能性が濃厚です。
トヨタに野村證券以外への譲渡承認を請求することも可能ですが、その場合には、トヨタへの申請等の諸手続きが必要となり、手間と期間が必要となります。
税務上の取扱い(税制)に要注意
第1回AA型種類株式は非上場株式であるため、税務上の取扱いは上場株式とは異なります。
配当所得
20.42%(所得税および復興特別所得税)が源泉徴収され、総合課税の対象として確定申告が必要です。
ただし、1回に支払を受ける配当等の金額が、「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下の場合は確定申告は不要です(住民税の申告は必要)。
所得が多い方ですと総合課税の対象になったら税率がかなり高くなるので、普通株式と比べると大きなデメリットとなります。
譲渡所得
20.315%(所得税および復興特別所得税15.315%ならびに住民税5%)の申告分離課税で、確定申告が必要です。
平成27年12月31日までは、非上場株式の譲渡損益は上場株式等の譲渡損益との通算が可能です。
その他
第1回AA型種類株式、および転換請求によって取得した普通株式は、特定口座やNISA口座に組み入れることはできません。
第1回AA型種類株式を転換した場合には譲渡益は発生せずに、第1回AA型種類株式の取得費が普通株式の取得費として引き継がれます。
税法上、第1回AA型種類株式に関しては、その相続税評価額の取扱いを明確に規定したものはありません。
以上は現行税制上のものであり、将来において課税上の取扱いが変更される可能性はあります。
メリット
元本保証
AA型種類株の保有者は、5年経過後は年4回、トヨタに発行価格プラス経過配当分で買取り請求できます。
つまり、5年経過したら購入金額が戻ってくるため、元本保証となります。
5年以内にトヨタが破綻したら戻ってきませんが、その可能性は戦争・内乱・天変地異などが無い限りは限りなく0に近いです。
株価上昇時の果実も
また、5年経過後は年2回、普通株式に発行価格(購入金額)で転換できます。
つまり、5年経過後に例えばトヨタの普通株が100株110万円になっていた場合、100万円で買ったAA種類株を普通株に転換して110万円で売却したりすることができます。
元本保証であるにもかかわらず、トヨタの株価が購入額以上に上昇した場合は、株価上昇の果実を享受できます。
トヨタ自動車の最新の株価
普通株が減配でも配当が固定
AA型種類株は当初5年間の配当は、発行価格に対して平均で1.5%、それ以降はずっと2.5%となります。
これは固定なので、トヨタの業績が悪化して普通株が減配したとしても、種類株の配当はそのままです。
ただし、トヨタは発行の約5年8か月後以降は、毎年4月にAA型種類株を発行価格プラス経過配当分で買い戻すことができます。
トヨタが買い戻し権を行使したら、売却する必要が生じます。
希薄化はなし
さらにトヨタ自動車はこのAA型種類株と同株数である5000万株・6000億円をそれぞれ上限とする自社株買いを行います。
既に別途決議されている自社株買いとは別に行われます。
トヨタはAA種類株式を発行しますけれども、普通株式の希薄化を回避する方策を講じています。
日本では初めての試みということもあり、批判に対応する方策を入念に組んでいます。
デメリット
5年間は譲渡不可・信用リスクあり
譲渡制限があるので、自然災害の罹災、破産などの事情がない限りは換金することができなません。
5年間は99.99%寝かせておける余裕資金の範囲で購入しましょう。また、トヨタが破綻したら戻ってきませんので、信用リスクがあります。
余程の野村證券の優良顧客でない限りは多額を買えることはないでしょうが、全財産のうちかなりの部分を突っ込むようなことは止めましょう。
配当が固定
AA型種類株は当初5年間の配当は、発行価格に対して平均で1.5%、それ以降はずっと2.5%となります。
これは固定なので、トヨタ自動車の業績が向上して普通株は増配したとしても、AA型種類株の配当は増えません。
また、現時点でのトヨタの予想配当利回りは約2.4%ですので、減配が無い限りは5年間で受け取る配当金は普通株の方が多くなります。
株価が上昇した場合は損
AA型種類株は普通株の1.26~1.30倍の価格となるので、トヨタの株価が順調に上昇した場合は、普通の株式を買った方がリターンが高くなります。
トヨタの業績・株価が順調に推移した場合は、AA型種類株を買わずに普通株を買った方が得することになります。
その他
マスメディアではあまり触れられていないのですが、AA種類株は未上場株なので、配当所得は総合課税の対象として確定申告が必要になります。
所得が多い方ですと総合課税の対象になったら税率がかなり高くなるので、普通株式と比べると大きなデメリットとなります。
また、第1回AA型種類株式、また転換請求によって取得した普通株式は、特定口座・NISA口座に組み入れることはできません。
NISA組み入れ不可なのはOKとしても、特定口座にできないのはデメリットです。確定申告が必要な場合は、自分で計算する必要が生じます。
ロックアップ・株式分割の際の取り扱い等
AA型種類株式のAA型配当金、AA型中間配当金、剰余金および残余財産の支払順位は、同順位となります。
トヨタが株式の併合または分割を行う際は、普通株式、第1回AA型種類株式の種類ごとに同時に同一割合で行うことになります。
募集株式または募集新株予約権の割当てを受ける権利を与える際も、同時に同一割合で付与されます。
トヨタはAA型株式の受渡期日から起算して90日目の間は、原則として株式の発行、新株予約権等の付与を行わないことを合意しています(ロックアップ)。
トヨタが数年で破綻する可能性は限りなく0%なので要らぬ心配ですが、AA型種類株式は、残余財産分配においては、普通株式よりも優先します。ただし、社債などの一般債権には劣後します。
まとめ
トヨタAA種類株式は、「株式」という名前は付いていますが、実質的は、オプション付きの転換社債(劣後債)のようなタイプの金融商品です。
当初5年間は平均1.5%の配当が確定していて、トヨタが破綻しない限りは元本保証で、更にキャピタルゲインの可能性もあるということで、日本の個人投資家にはグサグサと刺さる金融商品です。
さすがトヨタであり、日本人の好みを正確無比に認識していますね。「元本保証で利率は有利で値上がり益もほしい」というのが大多数の日本人の感情だと思います。
しかも、今回のトヨタのAA種類株式は、トヨタの経営状況や信用力からはややコストが高いのではないかという評判・口コミが現職のプロの間では多いです。
この種類株はトヨタと野村證券が個人投資家をカモにして嵌め込んでいる商品ではありません。ポートフォリオの一翼に放り込む商品としては良いと考えます。
一部のマスメディアや専門家からは批判的な評判・口コミもありますが、大人気となるのは間違いないでしょう。野村證券の辣腕営業が本領を発揮しなくても、すぐに売り切れると思います。
どうやらこのAA種類株式は1回で終わるのではなく、複数回発行することも検討されているようです。人気が殺到して買えない人が続出したら、再発行の可能性もあります。
ただ、2回目以降は条件が悪くなる可能性があります。ほしい場合は早めに野村證券に連絡を入れましょう。
トヨタAA型種類株式を購入する場合の買い方
トヨタ自動車株式会社 第1回AA型種類株式を購入できる証券会社は野村證券です。口座を持っていない場合は野村證券に口座開設して、ほしい旨を伝えましょう。
インターネットでの申し込みは不可であり、本店・支店のいずれかで申し込む必要があります。
期間は6月22日(月) から7月7日(火)までの予定ですが、大人気のようですので早めに売り切れる可能性が高いです。
既に口座をお持ちの方は担当に連絡しましょう。担当がいない状況の場合は、支店に連絡することになります。
応募が多数で割り当てられなかった場合は購入できません。購入申込みは、発行価格等決定日(7月2日~7月7日のいずれかの日)の翌営業日から7月22 日(水)迄です。