リタイア後の資産運用の留意点

更新日:   資産運用・マーケット・経済

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NRI国際年金研究シリーズ Vol.6 というレポートは、リタイア後の資産運用を考える上で参考になります。

レポートの一部分で、今後のリスク資産の価格推移のシナリオが二つ想定され、成熟度の低い年金ファンドと成熟度の高い年金ファンドの間で、生じるリターンの違いが記述されています。

成熟性が高い年金基金と低い年金基金

低い年金

ここでの「成熟度の低い年金ファンド」とは、「掛金>給付」の状態の年金基金であり、リスク資産売却よりも購入の方が多く、今後資産が増加していくファンドです。若年層が多い年金基金のようなイメージです。かつての日本の公的年金です。

個人投資家でいうと、現役世代に相当し、収入を元手に各種資産を積み上げている状態です。

高い年金

「成熟度の高い年金ファンド」とは、「掛金<給付」の状態の年金基金であり、リスク資産売却の方が購入よりも多く、今後資産が減少していくファンドです。高齢層が多い年金基金です。現在の日本の公的年金です。

個人投資家でいうと、引退世代に相当し、今後は追加投資はなく、積み上げた資産を取り崩して、必要なキャッシュを作っている状態です。

高い分配金利回りの毎月分配型投信も、これと同じ性質があります。分配金は「投信の一部自動解約・取り崩し」と同義だからです。毎月分配型投信とは「毎月一部自動解約特約つき投信」です。

相場が右肩上がりの場合、下落して回復の場合

2つのシナリオ

レポートでは、以下の2つのシナリオが想定されています。

(1)当初から成長基調で、基本的には右肩上がり
(2)当初は下落し、その後に急速な回復

結果は以下の通りです。クリックで拡大します。

成熟度が与える積立比率への影響

若年層が多い年金の場合

成熟度の低い年金ファンド(現役世代)は、シナリオ間のパフォーマンスの差はそれ程大きくありません。

若い基金の場合のパフォーマンス

高齢層が多い年金の場合

それに対して、成熟度の高い年金ファンド(引退世代、毎月分配型投信)は、「(2)当初は下落し、その後に急速な回復」の場合は悲惨なパフォーマンスとなっています。最終的なリスク資産の価格は同じであるにもかかわらずです。

成熟した基金

現役時代の資産運用と、リタイア後の資産運用の差

一般的には、「若いうちは多額のリスク資産を保持し得る。引退後はリスク資産は抑えた方がいい」と言われています。

その趣旨は、引退して資産をどんどん取り崩す状態では、一度大きくやられてしまうと、元本が目減りした上に取り崩していくので、取り戻すのが非常に難しい点にあります。

2001~2003年や、2007~2009年はリスク資産の価格は大きく下落しましたけれども、追加投資が可能な人は十分に挽回が可能でした。しかし、フルインベストメント状態で今後は取り崩す一方の引退世代は、致命的なダメージを被った可能性があります。

パソコンを操作する女性

リタイア後の資産運用の基本

引退後に資産を取り崩している状況だと、一度大きくやられてしまうと致命的なダメージとなるため、ダウンサイドリスクに対しては、注意が必要です。前述のレポートにあるように、「一度下落すれば再復活の道なし」となってしまいます。

資産を取り崩す必要がない場合は、問題ありません。例えば、資産額5000万、残りの人生で使うお金はせいぜい2000万という場合は、3000万をリスク資産に投資しても全く問題はありません。

仮にマーケットが調整して大きく目減りしたとしても、取り崩さずに相場の回復を待ちながら、インカム収益を得続けることは可能です。

したがって、リタイア後の資産運用は、リスク資産に投資する金額は、想定される最大損失額を取り崩す必要がない範囲にとどめるのが無難です。

毎月分配型投信は、購入後右肩上がりで上昇すれば、得た利益を徐々に利益確定する結果になりますが、一度大きくやられてしまうと、分配金のほぼ全てが特別分配金(元本の自動解約)となり、元本がどんどん目減りします。

したがって、分配金を止めない限りは、取り戻すのは難しくなりそうです。分配金利回りが高い毎月分配型投信は、一度大きく下落したら、再復活の道は険しいです。

GPIFの株式・オルタナティブ投資の増加

現在、日本の公的年金であるGPIFは債券の比率を下げて株式やオルタナティブ投資の比率を増やす方向です。日本は高齢層がどんどん増えて、積立金を取り崩していく状況です。「成熟性が高い年金基金」です。

このような情勢では、リスク資産を大々的に買い増す場合、最初の数年のパフォーマンスが非常に重要です。上手く行ったらかなり年金の財政はよくなります。リーマン・ショック後のような時期にリスク資産の運用に乗り出すのが理想です。

他方、掛金収入(国民の年金保険料)よりも、年金支給の方が多い状況で、積立金は取り崩されていくため、最初の数年で大きくやられてしまうと、ダメージは大きくなります。

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