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円安で困ると円安になる皮肉。投資家は世論の変化には要注意

投稿日: 資産運用の考え方

ドル紙幣の山

ドル円が6年ぶりの1ドル110円を一時突破して、円安を懸念する声、円安牽制が政財界から度々出てきました。これ以上の円安は望ましくないという声が噴出しています。

円安は善・円高は悪という風潮が一気に大転換しました。レジーム・チェンジの様相を呈しています。


政財界の声

経団連の榊原会長は「これ以上の円安は日本全体にとってマイナス影響が大きくなってくる」「(現状の円相場の水準は)許容というか、ギリギリの線という感覚」と円安に懸念を示しました。円安で恩恵を受ける企業が多い経団連の会長としては異例の発言です。

経済同友会の長谷川代表幹事は、「(円安が)これ以上進むことについては、国にとっても産業界にとってもプラスではない」「長期デフレの間に経済構造や産業のあり方も変わっており、円安になっても輸出は増えない」と述べました。

ロイターの最新の企業調査では、約75%の企業がドル円は105円以下が望ましいと回答しています。経済界のみならず、政府からも行き過ぎる円安は望ましくないという見解が出ています。

安倍首相は「(円安には)プラスもマイナスもある。燃料代などが高騰しており、地方経済や中小企業に与える影響をしっかり注視していきたい」と述べ、甘利明経済再生相は「急激に為替が動くことは好ましくない」「実力に見合って安定的に推移することが望ましい」と述べました。

菅官房長官は「経済への影響はメリット、デメリットがある。円安は輸出競争力を高めると同時に、輸入の物価の上昇の要因となる」と円安万歳論とは一線を画しています。

菅官房長官が述べている通り、円安にはメリット・デメリットの双方がありますね。

考える男性

円安のメリット・デメリット

メリット

円安が進むと日本国・企業・個人の外貨建て資産の円換算の金額が膨張します。また、輸出企業等の企業業績の円換算の金額が増加します。

円安が進むことで海外の工場が日本に戻ってくることはなくても、海外への移転を押しとどめる効果もあると言われています。就業者数は約6300万人であり、うち製造業は約1000万人です。約16%です。

円安のメリットは一部の内需産業も享受できます。例えば、観光産業や証券会社・金融商品取引業者です。円安によって外国人観光客数が過去最高を更新しており、株式・外貨トレードが2012年までよりも活発化しています。

諸々のデータを延々と記述するのは避けて結論を述べると、円安によって、円安で円建て輸出の受取額が増加し、上場企業全体(株価指数)では、売上高の増加は大きくないものの、利益は大きく増加します。上場企業の営業収益では製造業のシェアは大雑把には60%程度です。

日本企業の利益率は小さな値であるため、売上高の増加が小さくても利益が大きく増加し、株価も上昇します。特に自動車産業のように原価が円安によってあまり増加しない産業には円安は大きなプラスです。

デメリット

他方、貿易赤字でネットでは輸入の方が多く、かつ非資源国である日本では、円安によって原材料費が上昇し、企業収益が圧迫される側面があります。外貨建ての収益、外貨建ての資産を保有していない経済主体にとっては厳しくなります。

足元では円安で輸出拡大が目論見どおりに行かず輸出数量は低迷しており、貿易収支は赤字が続いて、交易条件は悪化の一途を辿っています。

円安によっても輸出数量が伸びていないので、実体的経済活動はそれ程大きくは変わっておらず、円安による原材料の高騰によって実質所得の伸びは低迷しています。

あの岩田規久男大明神でさえ、「円安が経済によいのかどうかは状況による」、「円安による輸出促進は以前より弱いことは否めない」と述べています。

霧の前に立ちすくむ人物

まとめ

円安によって利益を得る企業・人もいれば、不利益を被る企業・人がいます。絶対数だと後者の方が多いでしょう。TOPIXや日経平均などの株価指数は円安によってプラスの影響があります。外貨建て資産を保有している場合もプラスです。

国全体として円安・円高のどちらがよいかは激烈な議論があり、そこに入るのは避けますが、ここにきて政財界から懸念の声が出てきたということは、これ以上の円安で不利益を被る企業・人がかなり増加してきたということでしょう。

企業経営の立場からは、円安・円高のどちらに行き過ぎるのも問題であり、また為替のボラティリティが高まって急速に変動するのは困ります。購買力平価より少し円安のドル円105円前後で安定的に推移してほしいというのが大多数の企業の本音でしょう。

しかし、無情なことにマーケットは時として行き過ぎます。また、円高が困るというときは円高方向に進み、円安が困るというときは円安方向に進みがちです。

為替レートを動かそうとすると、その方向に行き過ぎてしまう歴史が繰り返されてきました。都合がいいレートで落ち着かせようとしても、為替はオーバーシュートしがちです。

貿易赤字、オープンエンドの異次元緩和、更なる追加緩和の可能性などからは、大局的な円安傾向バイアスがかかるのは否定しようがありません。

急速な円安が進み足下では円高調整が入っていますが、「円安で困った」という声が深刻化するところまで円安が進んでしまうのではないかと想像しています。

霧の中のボート

世論の変化に要注意

円安が進行して実質所得の低下で生活が苦しくなる人が増加し、世論が「円安はケシカラン、インフレはケシカラン」という風潮になったら、異次元緩和の巻き戻しが真剣に議論される可能性もあるでしょう。

安倍首相の最大の関心事・最終目標は経済というよりは政治の方向です。そのためには世論の支持維持が至上命題であり、地方を中心としてスタグフレーション批判の大合唱が始まった場合、金融緩和の終了、場合によっては経済に悪影響を及ぼすのは確実な金融引締めも視野に入ってきます。

株価・為替には悪影響なのは確実であり、その時はポジションをかなり落とすのが無難でしょう。世論の支持から始まったアベノミクスは、世論の本格的な離反がもしあったら終焉するでしょう。

2007年の参院選は経済状況が良好にもかかわらず、格差問題や消えた年金問題で与党が大敗しました。日本の選挙は大きな格差があり、地方が有利で都市部が不利です。最大で1対4.77であり、都市部の4~5人の票は地方の1人と同じ重さです。

日本の選挙で勝利するには地方の支持が絶対的要件となります。「株や外貨建て資産を持っている人や大企業ばかりが儲けるけど、物価が上がって生活が苦しくなるだけで、自分らはいいことが何もない」という考えが地方に拡大し、物価上昇、円安、異次元緩和に対する反対の世論が徐々に増加する可能性があります。

そうなったら、1票の格差が激しくて地方の支持がないと政権を維持できない状況下では、政治はそれに対応せざるを得ません。日銀は独立しているというのが建前ですが、任命権を国会が握っている以上は、実質的には独立していません。

たかだかこれくらいで円安・インフレに対する懸念が増加して、マスメディアを賑わせているとなると、金融緩和の行く末に懸念が出ます。少なくても、円安に火を注ぎかねない大規模な追加緩和は難しくなる可能性があるかもしれません。

円安・インフレ容認か、円高・株安を覚悟で異次元緩和を巻き戻すか、政治的には非常に難しい判断となってきます。まだ株式・為替はロングでOKと判断していますが、2007年のように世論が変化してきた場合は要注意だと考えます。

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